- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに―アルテンプフレーゲリンは福祉職か医療職か
今日,わが国の高齢者に対する身体介助や身の回りの世話は,主として介護福祉士,ホームヘルパーといった介護職が担っている。しかし,介護保険導入直後から,医療行為の実施をめぐって介護職と介護サービス受給者との間で問題が生じており,介護職に対しても医療行為の実施を認めるという方向性が政策的に検討されている。
ところで,ドイツ連邦共和国(以下,ドイツ)においては,2000年11月に「アルテンプフレーゲ(Altenpflege:老人看護)の職業に関する法律」が成立し,2003年8月1日に施行される1)。本法がその職業名称と教育を規定する「アルテンプフレーゲリン(AltenpflegerIn)」2) は,わが国の介護福祉士制度設のヒントとなったと言われており,従来から「福祉職」として,「老人介護士」という日本語訳で複数の文献において紹介されている3~6) 高齢者介護サービスの担い手である。
たしかに,アルテンプフレーゲリンは,1960年代に,患者看護師とは異なる職業として構想され,社会扶助の分野を主な就労分野として,高齢者の世話や身体介助,社会的援助をその職務の中心としてきた。しかしながら,今年8月に施行される「老人看護の職業に関する法律(老人看護師法)」は,アルテンプフレーゲリンを「医療職」として位置付けており,医師の指示の遂行も含めて,疾患をもつ高齢者が治療を受ける際の協力もその職務内容として規定している。
高齢者介護政策に早くから取り組んできたドイツが,なぜアルテンプフレーゲリンに医療処置の実施を認める政策に着手したのか,その経緯を知ることは,わが国の介護の現場を混乱させている要因を明らかにし,適切な打開策を導く手がかりを示してくれるものと思われる。そこで本稿は,ドイツの連邦レベルで初めて施行される「老人看護の職業に関する法律」が成立するまでの歴史的・制度的背景を中心に検討してみようと思う。
なお,アルテンプフレーゲリンを「老人介護士」と日本語訳することに関しては,早くから華表氏によって異議が唱えられており7),また,筆者も本法はアルテンプフレーゲリンを「医療職」として,「高齢者専門の看護師」として位置付けたものであることをすでに別稿で述べている8)。しかしながら,アルテンプフレーゲリンは,後述するように連邦法ではなく州法の下で発展してきた制度であり,州によって,時代によって,その制度的位置付けは異なっている。そこで,歴史的背景に言及する本稿においては,混乱や誤解を避けるために,原語読みのまま「アルテンプフレーゲリン」という語を用いる。
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.