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はじめに――組織的な取り組みの必要性
岡山大学では,職員間あるいは,学生と教官との間に起こるハラスメント対策については,「セクハラ等防止委員会」が全学的に設置され,各部局には相談員が配置されるなど,積極的に取り組み,システム化されている。一方,病院では患者やその関係者と職員間に暴言・暴力・セクハラといったハラスメントが発生しているにもかかわらず,それに対応できる体制が全くなく,それぞれの現場で苦慮していた。
2004(平成16)年8月に看護師などのコメディカルを対象に行なったアンケート調査でハラスメントの実態がより明確になった。セクハラを受けた経験をもつ看護師は216名で,回答した看護師数450名(回収率83.7%)の48%であった(図1)。その「相手」と「セクハラの内容」については図2と図3のように「患者」が最も多く,「身体に触られる,抱きつかれた」という内容が多かった。
また,暴言を受けた経験をもつ看護師は261名で,回答者の約6割であった(図4)。人数は若い年齢層ほど多かったが,回答人数からみた割合は逆に40,50代が高かった。相手は図5のように「医師」が非常に多く,次に「患者」であった。内容は,図6のように「大声でどなる」「軽視」などであった。
「暴力」を受けた経験をもつ看護師は56名で回答者の12%であり,年齢層に大きな違いはなく(図7),相手のほとんどが「患者」であった。
ハラスメントを受けたとき,看護師は「怒り」や「悔しさ」を感じ,「ショック」や「悲しさ」「憂うつ感」「恐怖感」「不安」を覚える(図8)。「友人に相談」「無視する」「仕方がないとあきらめる」といったものや「上司や家族に報告・相談」,あるいは「抗議をする」という対応があった(図9)。そして多くの経験者は,意欲が減退すると回答している。
コメント欄には「ハラスメントによって深く傷ついている者がいるということをもっと真剣に捉え,取り組むべき」「患者の辛さもわかるが,働く者も一人の人間であり,傷つくことを知ってほしい」など,たくさんの意見が寄せられた。
このアンケート調査と前後して,救急外来において患者・家族からの暴言・暴力が顕在化したのをきっかけに「職場の安全性」についての危機感がますます高まっていった。そして,体験をもとにセキュリティの強化,報告体制や緊急時の連絡/応援体制などの整備について,病院の顧問弁護士や警察のアドバイスも受けながら進めていた。
その最中の2005(平成17)年,「面会人が看護師を理由もなく殴打する」「患者が刃物をもって侵入し,医師を刺す」「患者が救急外来にて大声で職員を罵倒したうえに,器物を破損させる」などという事件が続いた。病院執行部会議でマニュアルの整備とその周知を早急に進めるとともに,「病院組織として患者家族といえども理不尽な暴力を容認しない」という方針を院内外にアピールすることとなった。
被害を受けた看護師らの多くは,「患者だから仕方がない」「病気がそうさせているのだから我慢しなければ,わかってあげなければ」「自分の対応が未熟だから患者を怒らせた」「どう対処すればよかったのだろう?」と被害者意識が薄く,むしろ内省的で看護師としての自信さえ失っていく傾向にあった。「あなた(看護師などの被害者)は悪くない」「患者といえども守らなければいけないこと,してはいけないことがある(病院は治外法権ではない)」ということを明確に表明したうえで,防止対策と発生後の対応を示すことが必要であった。
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