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はじめに
筆者は,急性期病院の転倒・転落対策を物的環境から検討することを目的とした研究,平成15,16年度厚生科学研究費補助金医療技術評価総合研究事業「医療施設における療養環境の安全性に関する研究」(主任研究者:三宅祥三・武蔵野赤十字病院院長)に参加する機会を得,この2年間,「環境」漬けとなり,一応の区切りを付けたところである。そして今,「環境のあり方を決定,選択するのは現場である」という当たり前の回答に個人的には素直に(?)落ち着いた。
物的環境の調整には個別対応よりもある程度の集団を対象にせざるを得ないという面があるのだろうか。このように思うのは,「どんな医療を提供するか」という方針が鮮明に打ち出され,スタッフ一同がそれを理解し,動いているというところほど,環境調整がしやすいように感じたことが原因かもしれない。したがって,環境の善し悪しは管理者次第です,と任せたいところであるが,その判断は容易ではないと痛感している。というのも,研究を通じて,特に急性期病院では療養生活の送りやすさに関する療養具などの情報がほとんど入ってこないことがわかった。介護福祉施設などでは当たり前になっているような標準装備でさえも,である。そこまで急性期病院は治療環境に徹しなければいけない状況なのか。このあたりは筆者にはわからない。ただ,急性期病院にいるスタッフのなかで療養環境にこだわる者がいるとしたら,それは看護職しかいないであろう。しかし,あえて環境に関する情報を得ようと奔走する急性期病院の看護師はどれだけいるだろうか。また,そもそも奔走する価値はあるだろうか。個人的には「ある」と言いたいが,費用対効果や現状の業務量を考えると,説得力をもって「ある」とはまだまだ言えないのが本音である。
この2年の研究の結果,筆者は,急性期病院の厳しい運営の中であっても,物的環境にこだわりたい,患者だけでなく医療スタッフにも“良い”医療をもたらす環境調整を支援したいと強く願うようになった。研究メンバーには建築の専門家らもおり,そういう方たちとともに仕事し,さまざまな刺激を受けたことは幸運であった。研究報告書には載せられない,しかし,筆者にとっては貴重な研究成果となったいくつかの気づきについて,ここで述べたいと思う。
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