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はじめに
薬剤に関連する事故は非常に多い。厚生労働省が行なっている,医療安全対策ネットワーク整備事業1)で,2004年1~3月の3か月間に登録病院から1万3390件のヒヤリ・ハット事例が報告された。その全事例を分析したところ,薬剤関連業務に関するものが最も多く,32.1%を占めていた(表1)。
そのヒヤリ・ハットの内容は,投与忘れや投与量の間違いが多い。他には,投与速度や投与日時,薬剤そのものの誤認などがある。そのため,薬剤におけるリスクマネジメントとして,薬剤準備や投与に関する業務のマニュアル化や,誤薬防止のための対策などが必要である。もちろん,これらは薬剤事故防止のために非常に重要なことである。
そして,もう1つ忘れてはならないことは,薬剤投与後の観察(副作用への対策)である。しかし,薬剤投与後の観察についての病院のマニュアルなどを見てみると,「十分に観察すること」の一言でまとめられ,軽視されている感がある。薬剤投与における看護師の役割を考えると,薬剤投与の段階で終了するのではなく,投与後に薬剤の効果が現れているか,副作用や異常がないか,などの観察までが求められている。
医薬品は,そのもの自体または投与される生体(患者)の状態によって,通常の用量でも有害作用(副作用)を起こすことがある。WHOでは,この有害作用を「疾病の予防,診断,治療,または生理機能を正常にする目的で医薬品を投与したとき,人体に通常使用される量によって発現する,有害かつ予期しない反応」と定義している2)。
医薬品の副作用は,薬理学的な作用に関連するもの(用法・用量の不適正,複数の薬物間での相互作用など)と特異体質や免疫系が関与したものなどに大きく分類できる。その中でも,最も注意しなければならないものは薬物過敏症である。なぜなら,有害作用のうちでも最も頻度が高く,かつ重篤なものも多く,通常の用量以下でも起こり得るからである。
この副作用の予測はきわめて困難であり,副作用が現れたら即座に投与を中止する以外に回避法はない。その薬物過敏症の中でも,とりわけ即時型反応であるアナフィラキシーショックは死亡するケースもあり,回避のためには投与後の的確な観察と判断,救命処置などが要求される。
今回はそのアナフィラキシーショックに焦点を当て,参考になる裁判例を紹介する。そこから,薬剤投与後に発症する副作用に対し,今後どのようなことが看護師に求められるのかを考えてみる。
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