特別記事
再び空へ羽ばたくために―ほんとうに患者が望んでいる療養環境とは?
大橋 晃太
1
1NPO血液患者コミュニティ「ももの木」・東京医科歯科大学医学部医学科
pp.226-232
発行日 2006年3月10日
Published Date 2006/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686100041
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終の棲家としての環境
私が白血病を発病してから,すでに8年以上が経過する。闘病生活を送った東京大学医学部附属病院も新病棟へと移転し,当時の薄暗い雰囲気からは想像できないくらい清潔感のある療養環境が実現できているように思える。
私が療養環境を強く意識したのは,自分の闘病生活のなかではなく,闘病時に出会った患者仲間の入院生活がきっかけである。お見舞いに行ったとき,「入院生活にも,もう飽きたよ」という彼の言葉が心に突き刺さった。結果的に彼は骨髄移植後に帰らぬ人となったが,その最期のときを迎える個室の療養環境――人工呼吸器などの医療機器,点滴,チューブ――無機質な部材に取り囲まれて,その真ん中にいる彼はほんとうに小さく見えた。その脇のわずかなスペースにパイプ椅子を広げて,奥様が窮屈そうに座っていた。そのとき,果たしてこんな療養環境でよいのだろうか,最期を迎える多くの患者やその家族の思いが,どれだけ医療サイドに届いているのか,強く疑問に感じた。同時に,それになす術のない自分自身の無力さに肩を落とした。
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