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連載のはじめに
これから看護学や看護実践が大きく発展するためには,社会が納得できるデータに裏づけられた,堅牢な知的根拠を示すことが必要です。その1つの方策として,近年では,医療・保健・福祉領域で集積される大規模なリアルワールド・データを用いた研究が推進されてきています。
リアルワールド・データの具体的なものとしては,例えば医療領域の場では,医科レセプトデータや電子カルテ情報等,保健福祉領域では,健診情報や介護データベース等が挙げられます。また,特定の疾患の発生実態把握のために集積している患者登録データなども,リアルワールド・データといってよいでしょう。これらのデータは,代表性が高く,医療・保健・福祉領域の実践の現状をふまえた信憑性の高いエビデンスを生産できる特性があります。そのため,リアルワールド・データを研究に活用するための制度,体制,条件が整備されてきているほか,情報の取り扱いや倫理的側面を含む規範等についても議論が進められているところであり,今後リアルワールドのデータの利活用は,社会の中でも一層進むと考えます。
また,アカデミアの世界においても,国内外でこれらのリアルワールド・データを用いた研究論文が急速に増えてきています。これまでこの領域の研究は,主にヘルスサービス・リサーチ分野の研究者が取り組んできましたが,最近では看護学の研究者が取り組む研究が散見されるようになってきています。
リアルワールド・データを用いて看護実践に還元できる知見を提供するためには,研究者にはどのようなスキルが必要でしょうか。第1に,看護実践に適用できる良質なリサーチ・クエスチョンを組み立てることが最も大切です。そのためには,データセットの構造について精通し,看護やケアにとって有意義であり,また正確に現状を測定できる変数を明確にすることが必要です。その上で,それらの変数を,独立変数,従属変数もしくは調整変数に適切に配置し,説得力のあるリサーチ・クエスチョンを組み立てます。多くのデータセットは,時系列に追跡できるので,時間的推移を考慮に入れて,リサーチ・クエスチョンを作成することも必要でしょう。さらには,リサーチ・クエスチョンに対して適切な解を示すことができる統計的手法を理解し,適用できるスキルが必要です。そのためには,先人によるリアルワールド・データを用いた優れた研究論文を抄読して,そのスキルを“模倣”することが必要不可欠です。しかも昨今の情勢として,優れたエビデンスは英文で出版されるため,英論文から把握せざるをえません。
本誌54巻5号(2021年)〜55巻6号(2022年)にて連載してきたJournal Club on Paper第1弾では,研究を志す大学院生や実践者の方が英論文に親しんでいただくことを目的に,いくつかの英論文を取り上げながら,研究論文を抄読するための基本を紹介しました。本号からはJournal Club on Paper第2弾として,リアルワールド・データを解析した英論文の実例を紹介しながら,大規模データに適したリサーチ・クエスチョンの組み立て方,解析方法,解釈方法について解説していきます。
本連載を通して,1人でも多くの看護学研究者や実践者の方々がリアルワールド・データ解析に親しみ,近い将来,看護学分野から社会に還元できる数多くの知見が産出されることを願っています。
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