特集 COVID-19は研究にどのような影響をもたらしているか
【他領域の立場から】
パンデミックを通過する—フィールドサイエンスの危機とその克服の道程
綾部 真雄
1,2,3
1東京都立大学
2東京都立大学人文社会学部
3東京都立大学大学院人文社会学研究科
pp.418-424
発行日 2020年8月15日
Published Date 2020/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681201802
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序
COVID-19の感染拡大は,文化人類学という学問のあり方を大きく揺さぶった。なかでも,フィールドワークの実施に慎重にならざるを得ない現状に,人類学者は戸惑いを隠せない。2020年2月以降,日本の人類学者のなかにも調査のための海外渡航を断念した者,調査中であったが急遽帰国を余儀なくされた者が数多くいるほか,帰国することがかなわず,半ば蟄居状態で現地に留まっている者もいる。現在は,各々が国内外の状況を注視しつつ,フィールドでの研究再開のタイミングを見計らっているところである。
一方,なすすべもなく座して待っているだけではない。このような状況にあっても実施可能なこと,このような状況だからこそ着手できることの模索は,比較的早い段階から始まっていた。そもそも人類学はフィールドワークのみを旨とするわけではなく,本来は,汎用性の高い尺度や枠組みを,地域を超えて人類に敷衍する哲学的な態度をもつ学問でもある。その意味において,人類全体に非選好的に試練を課すCOVID-19は,世界各地の人々の価値や観念を浮き彫りにするエージェンシーとしても注目されている。事実,そうした観点からの試論的な報告が各国の人類学者から届き始めている。
これらを踏まえつつ,本稿では文化人類学が置かれた現状を暫定的に整理する。まず,所属研究室,国内の学会や研究会,国際学会・ネットワークについて,それぞれのレベルでの対応や取り組みを概観する。そのうえで,公共領域における人類学の再定位,オフライン調査とオンライン調査の相補性,代替的知見の発信の3点を,人類学者による次を見据えた営みとして切り出してみたい。
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