特別記事
実践の事例研究で学ばれる事柄をどのように考えるか(後編)
家髙 洋
1,2
1東北医科薬科大学教養教育センター哲学教室
2東北医科薬科大学教養教育センター
pp.430-438
発行日 2020年8月15日
Published Date 2020/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681201805
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承前
対人的な実践に関する事例研究の重要性を1970年代から主張してきたのは,臨床心理学の河合隼雄である。いうまでもなく,1つの事例研究の結果を別のさまざまな状況にそのままあてはめることはできないが,河合(1994[1992],p.213)によれば,多くの人にあてはまるような方法は一般的すぎて各々の状況においては「ほとんど役に立たない」のである。
そこで河合らは「個々の事例をできるだけ詳しく発表する事例研究」を始めた。そうすると,それが相当に「有用である」ことがわかった。しかも興味深いことは,「対人恐怖の事例を聴くと対人恐怖の治療にのみ役に立つのではなく,他の症例にも役立つ」ということである。「男女とか年齢とか,治療者の学派の相違とかをこえて,それを聴いた人がすべて何らかの意味で『参考になる』と感じる」と河合は言う。ここに事例研究の1つの意義が示されているだろう。ある事例をできるだけ詳細に述べるならば,その事例とは異なるような事例に対しても何らかの知見を与えるのである(河合,1994[1992],pp.213-214)。
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