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COVID-19が拡大したときの状況
COVID-19が拡大し始めた3月,私は広島大学大学院医系科学研究科に着任し,4月に国際保健看護学の研究室を開講した。直前の2月にはニューヨークの国連で「科学における女性と少女の国際デー」でのスピーチを経験し註1,3月にはエチオピアとワシントンDCへの出張も予定しており,その後母校のイリノイ大学から,指導教員であった教授の来日も控えていた。国際的な活動をさらに広げていこうとした矢先,COVID-19によりすべての出張と来日が中止になった。その後も6月から7月にGlobal Young Academy(GYA)総会(インド),国際助産師連盟(ICM)三年毎大会(インドネシア),WHO協力センター看護助産二年毎学会(タイ)が予定されていたが,すべて中止/延期/オンライン化された。また私は,9月にカナダで予定されていたINGSA(International Network for Government Science Advice)の若手科学者のための科学リーダーシップ能力構築ワークショップの組織委員にもなっていたが,翌年に延期された。国際連携を強めていく動きをまさに開始しようとしていた矢先に国際学会がすべてなくなってしまったこと,フィールドワークに出掛けられなくなったことは,「国際保健看護学」の研究室の立ち上げに向けたさまざまな計画が消えていく経験だった。
しかし,何かがなくなると新しい動きが出てくるもので,COVID-19関連のさまざまな動きが起こった。先述のGYAは,世界中から分野を超えて200名の若手科学者が選ばれ活動する組織であるが,私も2018年より執行役員として所属している。そのGYAのメンバーの中で,若手科学者として世界の混乱に対するメッセージを出すことになり,内容の作成とインフォグラフィックの日本語版の翻訳に取り組んだ註2。中心的なメッセージとしては,一般市民は不確かな噂に惑わされず,科学的に正しい予防策をとること,若手科学者は科学と市民,科学と政策の間をつなぐメッセージの発信者となること,政策決定者は,学際的な科学者グループと共にエビデンス情報を活用した意思決定をすることを盛り込んだ。もう1つ,G7科学アカデミー会合(通称Gサイエンス)には,2019年から参加しているが,ちょうど2020年の声明文を作成中に,急遽COVID-19関連の声明文を出すこととなり,そちらにも参画した註3。4月の,各国が自国の対応に追われている時期に,いまだからこそ,開発途上国を含めたCOVID-19の拡散がこれから予測される地域との国際協調を,と唱えた。そのほかにもCOVID-19関連の政策への助言や情報収集など,新天地広島での新たな業務,大学でのCOVID-19対策に加えて,さまざまな社会的活動に声が掛かった。当時情報収集する中で,現場の看護師らからマスクやPPEの不足が伝えられ,臨床で頑張っている同僚や後輩のことを思うと,私も研究者として学術的,政策的な貢献に努めなければならないと,3〜5月は昼も夜も絶えず何かに取り組んでいた気がする。
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