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「人を対象とする研究」
看護師は,専門職業人として,自らの看護実践が患者や家族の健康状態や社会的状況を改善しているのか,改善しているとしたらそれはなぜなのかなどを,研究的な視点で振り返り分析する看護研究を積み重ねることを課せられている。看護研究の中でも,事例研究は臨床の看護師にとって身近な存在であるとともに,人間の心理や行動の理解を深め,看護現象の新たな知見の発見に導く優れた研究法である。看護における事例研究は「人」を対象とする研究であり,研究に携わるすべての関係者は人間の尊厳および人権を守り,適正に研究を推進する必要がある。厚生労働省(2014)は,そうした研究の倫理のために,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を示し(表),その中で,研究を進めるものは社会的,学術的に意義のある研究を実施すべきであり,倫理審査委員会による倫理審査を受けることが基本であるとしている。
そもそも,なぜ研究倫理があるのか。それは人を対象とする研究という営みが,かつての医学研究の歴史において非人道的な研究や研究データの改ざんが行なわれたりするなど,極めて危ういバランスの上に立っているという事実があったからである(神里,武藤編,2015)。その後,近代社会の到来を迎えてもなお倫理的な配慮が必要になるのは,被験者は常に搾取の危険に晒されている,ということに変わりはないからである。つまり,臨床研究の主な目的は,大勢の患者のために医学的知識を増大させケアの質を向上させようとする点にあり,目の前の個々の被験者にとっての最善の利益を追求する点にはないのである。研究によって多くの患者の利益が得られるからといって,個々の被験者が手段として扱われてよいはずはない。ゆえに,被験者を可能な限り大事にし,彼ら/彼女らの権利と福利はしっかりと守られていることを,倫理審査として審議し保証する必要があるのである。我々看護職者の責任としては,「自らの看護実践の倫理的根拠をきちんと説明すること」「研究者が倫理的な吟味を受けること」が,被験者への倫理的配慮といえよう。
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