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はじめに
看護学においては,量的研究や質的研究,あるいは混合型研究などの多様な研究が可能である。看護実践の質向上が第一義的であるときは,実践改革の視点をもった看護実践研究を進めることができる。看護実践研究に重要なのは,保健医療福祉利用者中心の視点で看護実践を考え,その研究的取り組みを継続できる組織体制の変革という方向性と,看護実践の改革者としての認識をもった人材育成という方向性を同時に有していることである。
実践研究および実践型研究については,臨床心理学領域(下山,1997;下山,能智編,2015),教育学領域(広瀬,尾関,鄭,市嶋,2009;西之園,生田,小柳編著,2012),およびソーシャルワーク(社会福祉学)領域(宮嶋,2013;日本社会福祉士会,2013)等において,1990年代後半より,その必要性・意義と考え方が時間をかけて検討されてきた。臨床心理学領域においては,実践を通して研究する実践型研究は,データ収集の場が「実践」となる研究であり,まさに実践活動そのものが研究プロセスの一部となるため,こうしたタイプの研究は自然科学のパラダイムには収まらないと指摘され(下山,1997),また2000年代初期には,教育学領域において,実践=研究の立場に立つ実践研究では,実践の中から理論を構築するために,それにふさわしい方法論の獲得が求められると指摘されている(広瀬,尾関,鄭,市嶋,2009)。これらの指摘は,実践活動を基盤とする看護学においても貴重な示唆となる。私たちは,看護学における実践研究をどのように捉え,「看護実践研究」として推進していくことができるのか,深い時間をかけて検討する必要がある。
筆者が所属する大学は,看護実践の改善・改革に向けて活動できる人材育成をめざしている。これは看護学科・看護学研究科に共通する理念であり,教育研究内容に広く深く反映されている。10年以上にわたり,看護実践に基盤を置く研究を追究し実施し,その成果の確認を積み重ねてきたことを基盤に,こうした方向性をもつ研究の重要性と看護学における意義を認識するに至っている。こうした特質を踏まえ本稿では,地域基礎看護学領域における筆者らの経験に基づき,看護実践に基盤を置く看護実践研究の基本的な考え方と方法を確認するとともに,その意義と今後の課題について検討したい。
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