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1.はじめに
病院を変わって働く看護師は,新たな病院でどのような経験をしているのだろうか。病院を変わって働くことは,「大変だとは思っていたが,こんなに大変だとは思っていなかった」という声をよく耳にする。私がインタビューをした,病院を変わった経験のある看護師たちも同じようなことを語っていた。これは,本人たちが考えていたある予測と現実が違っていたということだろう。また,このような看護師たちの「1年目のように扱われる」「同期がいない一匹オオカミ」など,ネガティブな言葉に私たちは注目しやすい。
では,何が新たな病院へ就職するときの予測と違っているのか。ネガティブな事柄として受け止められうる原因を探し,退職へつながらないように,それぞれに対応策を講じようという研究がすでにある(伊東,2010;小西,撫養,勝山,青山,2014)。これらの研究の成果からは,病院を変わった看護師の予測と新たな病院で経験している現実との相違や,新たな組織に社会化する過程については概観することができる。しかし,これらの研究では例えば,「1年目と同じ扱いを受ける」「新人扱いを受けて自尊心が傷つく」という,病院を変わる看護師がすでに「懸念」していた事柄,あるいは病院を変わったことによる「問題」として語られている内容が,どのような文脈において成り立っているのかということには触れられていない。
そこで,本研究は,初めて病院を変わった看護師が,その経験を振り返り語ることを通してどのように経験を意味づけているのか,因果関係を探索するような自然科学的な見方をいったん棚上げし,データを断片化して文脈をそぎ落とすような方法からも距離をとり,1人ひとりの看護師の文脈をもって立ち現われる経験そのものを探求していきたい。併せて,「看護」の事象を分析するときに「哲学」がどのようにかかわるのかを考察する。
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