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はじめに
エビデンスに基づいた実践,いわゆるEBP(Evidence-Based Practice)が唱えられて久しいが,EBPにおけるSR(Systematic Review;システマティックレビュー)の占める重要な役割は,まだ十分に理解されているとはいいがたい。SRはヘルスケア実践にエビデンスを導入するにあたり,系統的な方法論上のルールに従いベストエビデンスを特定するための研究方法論である。本稿では,看護学研究領域や他の学問領域から近年注目を集めている質的研究のSR方法論の,現状と動向の考察を試みるものである。一次研究であっても,質的研究の現状を端的に解釈し説明することは容易ではない。世界中の質的研究者それぞれのよりどころとする研究哲学・研究分野・地理的言語的背景や学閥の違いなどにより,多様な解釈が可能であるためだ。これは二次的データを扱う質的研究のSR(以下,質的SR)の場合でも全く同様で,比較的新しい研究分野であるがため,質的SRを取り巻く状況はさらに混沌としている。
そうした状況の解釈と紹介を試みるにあたっては,質的研究パラダイムとEBPに関わる筆者の立ち位置と背景を示しておくことが適切と考える。筆者は,看護学領域におけるSRの開発と普及に取り組んでいるJBI(Joanna Briggs Institute;ジョアンナブリッグス研究所)で,主に質的SRやMixed Methods SRの教育・研究に関わってきた。2012年度より日本の現職で看護学教育・研究に携わるかたわら,JBIの正式なSRトレーニングプログラムの認定講師として,主にJBIセンターでの教育プログラムに関与している。本稿は,JBI勤務時代の経験や知識をもとに執筆しているため,多分にJBIの考える質的SR像を反映してはいるが,JBIとは異なる筆者個人の見解も含んでいることをご承知願えればと思う。
なお,「メタ統合」と「質的SR」は現在では同義語として使用されることが多いが,本稿では「メタ統合」は,採用した一次研究データの統合部分を特に指し,「質的SR」は,テーマ設定から文献検索〜質的データ統合,考察,結論までの一連のプロセス全体を指すこととする。
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