- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
- サイト内被引用
はじめに
1980年代にカナダの医師,David Sackettらにより開発・提唱された科学的根拠に基づいた医療(Evidence Based Medicine ; EBM)は世界に普及しているが,現在看護学においても同様に,科学的根拠に基づく実践(Evidence Based Practice: EBP)が重視されるようになっている。看護国際名誉学会であるSigma Theta Tau(2008)は,「最高かつ利用可能なエビデンスから得られた可能な限り最高の治療およびケアを確実に行なうことが現在のヘルスケア実践に求められている」との声明を掲げている。その中でEBPは,「研究によるエビデンス・臨床の専門知識やノウハウ・患者の体験や嗜好・その他の手堅い情報を基盤とした臨床家・患者・その他の重要人物の間での意思決定を共有するプロセス」と定義されている。そのため,研究によるエビデンスを得て,これを有効に適用することが,臨床でEBPを実施するために求められる必要不可欠な要素である。
では,臨床家がEBPを実際に行なっていくにはどのような環境が必要なのだろうか。Sigma Theta Tau(2008)は上記の声明の中で,「看護実践や患者のアウトカムが改善するためには,利用可能なエビデンスにアクセス・評価・統合・使用することができる必要がある」と提言している。すなわち,臨床の疑問に関して学術雑誌等で報告されたエビデンスが十分に存在することと,それにアクセスできる環境が重要である。国際的には,エビデンスレベルの高い無作為化比較試験(Randomized Clinical Trial ; RCT)を用いた研究やシステマティックレビュー(Systematic Review;SR)などが活発に発表されている。MEDLINEやCochrane Libraryのような学術データベースの充実により,エビデンスへのアクセスも改善してきているといえよう。しかしその一方,そうしたエビデンスが臨床実践の場で十分に活用されているとは,いまだ言い難い現状がある。
本稿では,エビデンスを臨床現場に浸透させることを目的として,臨床家がEBPを実践していくために必要な課題を考察する。課題解決のための一つの取り組みとして,大阪大学に設立されているThe Japan Centre for Evidence Based Practice(JCEBP)の活動を紹介し,これまでの活動の中から見いだされた課題やJCEBPのめざすべき今後の展望について述べる。
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.