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■博士論文の概要
「エスノグラフィの分析を通して見えてくる被災した町の保健師の経験」
本研究の目的は,東日本大震災後,なぜ保健師は被災地にとどまり活動を継続したのかという研究疑問を考究しながら,保健師が被災地で経験したことをその背景にある文化を含めて記述し,将来の起こり得る災害への備えに対する課題と教訓を示すことである。
主要研究参加者は,東日本大震災で陸の孤島と化したK市3つの総合支所に勤務する常勤保健師7名であり,エスノグラフィを用いて分析を行なった。
分析の結果,5つのテーマが導き出され,保健師は自分の思いが詰まった担当地区で,困窮している住民の健康を守るのは「町の保健師」としての使命であると信じて住民の命を守っていた。それら保健師の中でも,初動時に「私の担当地区」を離れていた者は,同僚と比較し初動時に住民のために何もできなかった自分を意識し,負い目の気持ちを抱くという特徴がみられた。また,家族の安否を確認することは,保健師が自分自身で家族が安全に過ごしていると納得できる「確証を得る」ことであり,その思いは,特に幼い子どもをもつ保健師に強かった。そして,保健師は一被災者という立場でありながら行政保健師としての役割を忘れることができず,我慢をすることを迫られる経験をしていた。そのような震災時・震災後の経験を通して,自分が保健師をなぜめざしたのかという原点に立ち返り,地域の住民や同僚,家族に支えられたことを再認識しながら,「町の保健師」である自分だからできたことを感じられたという形で,経験に意味を見いだしていた。
将来の災害への備えとして,保健師自身が自己開示をして,不安や悩みを外部者に伝えることが必要であることを認識し努力すること,外部支援者が初動態勢につけなかった保健師の心理を理解して個別性を考えた支援を行なうこと,家族の安全を確証する方法を保健師,所属行政機関それぞれが準備をすることの必要性が示唆された。
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