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はじめに
石巻赤十字病院は,石巻市,女川町,東松島市で構成される石巻医療圏で唯一の災害拠点病院である.対象人口は22万人に上る.以前から,「宮城県沖地震が30年以内に99%の確率で起こり,かつ石巻に直撃する確率はそのうち80%」と言われていた.当地でいつ大地震が起こってもおかしくない状態だったわけである.
ゆえに当院では早くから,大地震に備えて様々な対策が取られていた.2006年5月,石巻赤十字病院は建物の老朽化のため,沿岸部の湊地区から津波被害のリスクの小さい内陸部に移転した.その際,災害に備えて様々な工夫をしている.まず,新病院は免震構造で地上ヘリポートがある.なぜ地上にヘリポートを設置したかと言うと,屋上ヘリポートでは災害時にエレベーターが停止すると想定され,患者搬送に困難を極めると判断したからである.また,災害時に多数押し寄せるであろう被災者を診療するスペースを確保するためにエントランスを広く取り,酸素投与が必要な被災者にも対応できるように,その一角の壁には4か所の酸素供給口を設置してある(図1,トリアージエリアも表示).院内災害対策マニュアルは,それまでの総論的で現実味のないものから,2007年暮れに具体的でリアルなものに改訂した.その特徴のひとつは,各部門の責任者を可能な限り実名で入れていることである.その狙いは,責任者を名指しすることで責任者に当事者意識を持たせ,実際に災害が発生した場合に迅速に対応できるよう準備することを促すことだ.その新マニュアルに基づき,2008年1月に大規模災害に対する院内対応の机上訓練を,7月には実働訓練を行った.2010年6月には,宮城県,石巻市と協働で「宮城県防災関係ヘリ連携訓練」を行い,大規模災害時のヘリの受け入れや送り出しシミュレーションを行った.
宮城県沖地震を想定した場合,行政のみならず,消防,保健所,警察,自衛隊,医師会,近隣病院などの関係機関との協働が不可欠である.そこで2010年1月には,これらの関係各機関の実務担当者を集めた石巻地域災害医療実務担当者ネットワーク協議会を立ち上げ,顔の見える関係を築いた.また同年9月,NTTドコモショップ石巻店,積水ハウス,四粋会(石巻市内の飲食店の寄り合い)と災害時の応援協定を結び,企業との連携も深めた.こうした活動が認められてか,2011年2月,宮城県知事より宮城県災害医療コーディネーターを委嘱された.県の担当者に業務内容を聞いたところ,沿岸ブロック担当で,沿岸地域で災害が起これば現地で災害対応の調整業務を行い,それ以外の地域で起これば県庁に入る,とのことであった.この直後の3月11日に,東日本大震災が発生した.
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