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はじめに
日常生活の中で「あの女性は“更年期”だから,イライラしてるんじゃない?」「暇な生活をしているから“更年期”障害なんかになるのよ」という会話を耳にしたことはないだろうか。この“更年期”は年代をさす用語や医学用語として普段の何気ない会話の中でも使われているが,それだけでなく40〜50歳台の閉経の時期にある女性たちを揶揄する言葉として使われている現状がある。また,一般には“更年期”に起きるさまざまな心身の不快な症状を「“更年期”障害」と呼び,治療の対象ともなる。このように“更年期”という言葉には多様な意味づけやイメージがあるが,それが“更年期”にある女性たちや取り巻く周囲の人々にどのように影響しているのだろうか。
助産師である私は,“更年期”の症状の相談を受けることがある。以前は,女性の年齢や症状を聞き,医学的定義による“更年期”に該当するかどうかをアセスメントし,日常生活に支障があると思われたときには医療機関の受診を勧め,食事や運動などの生活改善について説明してきた。そして,“更年期”が過ぎれば症状は改善されるからと励まし,不安を解消するように努めていた。
しかし,私のかかわりが有効ではなかったことを痛感する出来事に遭遇した。私は“更年期”にある母の症状についても相談に乗っていたが,母は娘の助言には納得できず,数か月を費やして医療機関を訪ね歩き,“更年期”の症状に自ら解決法を探し出したのである。結局,私は“更年期”の症状のある女性たちがどんなつらさを抱えて生活をしているのか,何もわかっていなかったという現実に直面し,正しいと信じていた“更年期”の症状に対する看護さえも,介入の手立てとしては不十分だということを思い知ることになった。
そこで,まずは“更年期”にある女性たちの立場に立って現状を理解することから始めなければと考え,“更年期”の症状のつらさに着目し,博士論文に取り組んだ。その結果,女性たちの語りから見えてきたのは,“更年期”のつらさは単なる心身の不調や不定愁訴だけではなく,女性たちをよりつらい状況に追いやってしまうさまざまな“更年期”にまつわる言説の存在であった。
本稿では“更年期”についての多様な言説が,女性自身や女性を取り巻く人々にどのような影響を及ぼしているのかについて,博士論文の研究の一部をもとに女性の語りを用いて示してきたい。
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