- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
I.はじめに
苦しんでいる人や傷ついた人を目の前にすると,なんとかしてあげたい,何か力になれないものかと思う。少しでも苦痛を和らげ,安心させ,落ち着ける環境や生活を取り戻す手助けができないものだろうか……。こんなふうに思うことは(すべての人にではないだろうが,ある種の人々にとっては),ごく自然な心の動きであろう。この,なんとかしてあげたいという思い,そこには苦痛や困難を体験している他者への共感があり,それがケアという営みの動因となる。
しかし,この共感という心の動きが,同時にどれほどのストレスや疲労,傷つきを援助者にもたらすものかは,まだあまり知られていないように思う。「共感疲労」(compassion fatigue)とは,傷ついたクライアントをケアする中で,相手の外傷的な体験にさらされた結果,援助者もまた苦痛な体験をすることであり,「ケアの代償」ともいうべきものである(Figley著,Stamm編,1999/小西,金田訳,2003,p.3)。それは「二次的外傷性ストレス」とも「外傷性逆転移」とも呼ばれ,クライアントが体験している恐怖や怒り,絶望感,無力感,孤立無援感といった苦痛な感情を,その程度の差こそあれ,援助者もまた同じように体験することである(武井,2006,pp.112-113;Herman,1992/中井訳,1996,p.217)。
私たちは,2012年から2013年にかけて,災害時における援助者の二次的PTSDの予防をテーマとした研究で,東日本大震災の救援に赴いた看護師十数名へのインタビュー調査を行なった(武井ら,2014)。その過程で私は,多くの看護師がこの共感疲労を体験していることを再確認すると同時に,この概念について深く理解している人でさえ,それを避けることは難しいことを痛感した。
本論では,インタビューに参加してくれた2人の看護師の体験について,詳細に検討することを通じてこの「共感疲労」について考え,それを乗り越えるための方策について検討してみたいと思う。
Copyright © 2014, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.