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はじめに
気管支喘息(以下,喘息)をもつ子どもの数は増加傾向にあり,10年間で約1.4倍,20年間で約2倍に増加している(Nishima et al., 2009)。喘息の有症率は地域差が大きく,人口密度の高い都市部で多く,非都市部で少ない傾向があったが,近年はその差が小さくなってきている(明石,赤澤,2007;Nishima et al., 2009)。小児期の喘息は乳幼児期の発症が著明で,3歳までに約70%が発症し,それ以後は緩やかな発症が続く(赤澤ら,2008)。喘息をもつ子どもの多くは思春期に軽快するものの,寛解せずに青年期まで継続したり,成人喘息へと移行する場合がある(松井,2003)。中には難治化をして死亡するケースもみられている(赤坂,松井,鳥居,西間,三河,2003)。
喘息の治療は発作時の症状コントロールから,非発作時まで継続する持続性気道炎症性疾患と捉えた抗炎症治療が中心となり,無発作状態を長期に維持するような治療が行なわれている(西牟田,西間,森川,2008)。副作用の少ない吸入ステロイド薬が繁用され,通院での治療が可能になった。
喘息をもつ子ども自身を対象にした看護研究では,学童期を中心に服薬ならびに吸入について喘息日誌を記載してセルフモニタリングができるように,知識供給型の教育(毛見,櫻井,源内,中西,2007),ライフスキルの育成とその効果(村田,2008)など,患者教育,医療者のかかわりの視点からの報告が多く,当事者の子ども自身の体験に関する研究は少ない。
医療人類学者のKleinman(1988/江口,五木田,上野訳,1996)は,患者の喘鳴や痛みなどの身体的な過程を監視し続けるという生きた主観的な体験を病いとし,病いの意味を理解することがケアにおいて重要であると述べている。
そこで,本稿では首都圏にある小児科クリニックでのフィールドワークを通して見えてきた小児喘息にまつわる言説とそれに関連する子どもの体験を記述し,権力という視点から考察してみたいと思う。
本稿では,筆者は小児期に喘息をもっていた当事者として子どもと家族に説明してかかわっており,以下,筆者自身を「私」と表現する。なお,登場する子どもの名前はすべて仮名である。
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