焦点 Coping
総説
対処(coping)に関する研究—文献概観
中西 睦子
1
,
黒田 裕子
2
,
前田 夏実
3
,
森山 美知子
4
1日本赤十字看護大学
2聖路加看護大学大学院博士課程
3虎の門病院
4日本赤十字社医療センター
pp.210-224
発行日 1988年4月15日
Published Date 1988/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681200970
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はじめに
筆者らは,特に慢性病患者の行動を説明するための理論的枠組の1つとして,対処理論に注目し,最近の保健ケアに関する分野でこの理論枠を用いてなされている研究を探った。近年の保健領域での文献では,対処という語はしばしば登場しており,いやでも注目せざるをえない現状もある。
R. Moos(1984)によれば,対処理論の定式化は,精神分析理論と自我心理学を土台としている。つまり,個人の自我過程が自己の衝動と外界の現実と間の葛藤を解決させうるというフロイトの理論と,現実志向的で,葛藤からはひとまず自由であるような自我領域を扱った自我心理学の諸理論とが,対処理論の源流であるという。この2領域の理論は,個人の対処資源の蓄積という観点から発達的な展望を形成するのに貢献し,それはたとえば,E. H. エリクソンによるパーソナリティの発達理論に実ったとMoosはみている。事実,心理学の領域で対処理論を定式化したR. S. Lazarusの初期の著作Psychological Stress and Coping Process(1966)は,知覚や動機に関する理論をはじめ人格発達理論や精神分析理論に基づく既存の諸知見との膨大な照合作業である。
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