焦点 事例研究と看護における予測性
解説
医学におけるネガティブデータの意味
河野 博臣
1,2
1河野胃腸科外科
2京都大学
pp.246-250
発行日 1980年10月15日
Published Date 1980/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681200622
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はじめに
医学はネガティブデータによって進歩してきたものと考えられる。そのために,いかに多くの生命が失われ傷ついてきた歴史の中で,人間はその歴史的なデータの集積によって今日の医学を作りあげてきたものと考えてもさしつかえないと考えられる。更にいえることは,生理的な面だけでなく精神的な面においてもいえることで,心身両面からの経験的,実験的,アセスメント的な方向によって,ポジティブデータを得てきたものである。しかし,実際には表面に出ないネガティブデータは,集積されながら,ポジティブデータを支えてきたものである。そして,ネガティブデータが,その時代が受容できる力を得るまでは,いつまでもネガティブデータとして日の目を見ることはできないものである。しかし,その時代の持つ耐容力,それはネガティブデータの集積によるものであるが,その内容が明確になったときには,すでにそれはネガティブデータからポジティブデータに移行してしまうものである。
例えば,山野に生えている植物を食べることによって,下痢や腹痛を起こし,時には死亡してしまうような経験をする。しかし,それによっていつの間にかあの植物は食べてはいけない毒植物であるといわれて,誰も食べなくなってしまう。そして食べてはいけない植物に組み入れられてしまう。しかし,「なぜ食べてはいけないか」というネガティブデータは次第に忘れ去られてしまう。
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