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看護学における研究のあり方と今後の方向性について検討する一助として,質的研究の勉強会であるJRC─NQR(Japanese Red Cross─Nursing Qualitative Research)に焦点を当ててみたい――本誌編集室からそうしたご提案をいただいたとき,私は一瞬耳を疑った。JRC─NQRは,日本赤十字看護大学大学院の院生と院生OG/OB,教員等が中心となって行なっている,質的研究に関する大変小さな勉強会である。知る人ぞ知るといえば聞こえがよいが,学術集会など大がかりなイベントはいっさい行なわず,月1回の定例会を続けるマイナーな集まりである。しかしよく考えてみると,そのような小規模で地味な組織の活動を通して看護学における研究のあり方を検討する題材とするからには,そこには何らかの意図があるはずである。
翻るに,看護学が学問としての成熟化をたどる過程で,他の学問と同様,看護学にも2つの疎外が起きている。1つは学問内部の疎外,すなわち看護学内部にみられる専門分化や細分化であり,もう1つは教育共同体内部の疎外,すなわち学生と教員との離反である。JRC─NQRという,対話やコミュニケーション,連帯と友情に基づく知的コミュニティは,こんにち日本の看護界が直面しているこの2つの疎外に,共同的実践を通してノーを突きつける。学会など大規模な組織とは異なり,JRC─NQRのようなミニマムな組織は,おそらくどのような場(教育や医療,地域,行政など)でも,どのような単位でも,関心を共にする人々が集まりさえすれば,いつからでも立ち上げることができる。そのような活動のヒントにすることが,この特集の意図なのではないかと,私なりに汲み取った。
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