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はじめに
私は日本で看護学の学部教育を受け,当時は学部4年目に助産過程を選択できたので,卒業時に保健師,助産師,看護師3つのライセンスを取得し,助産師として働きました。その後,イリノイ大学シカゴ校看護大学院博士課程に入学し,タンザニアのある農村地区をフィールドとして博士研究を行なう機会を得ました。妊産婦死亡率の高いタンザニアの農村地区で,助産ケアの質を改善し,将来的な妊産婦死亡率の改善につなげたいという意志のもと,まずはケアの受け手である妊産婦たちの考えや思いをインタビューするという研究を行ないました。
タンザニアの農村という異文化の地,しかもいろいろなものが組織立てられていない地域で,対象の健康状態の改善を目的とした看護研究を,質的研究の方法論を用いて第三言語で行なうということは,さまざまな面でチャレンジングでした。いろいろな困難に直面し,大学院で学んだ厳密な研究方法をそのまま実施するというよりも,現地に合った方法に応用する必要性に迫られました。現地で「この環境でできるベストな方法」を考え,現地のアシスタントやイリノイ大学の教授の援助をいただき,どうにか乗り越えた経験は,研究としての経験だけでなく,大きな人生経験となり,将来にわたるミッションを自分に与えてくれるものでした。
ベストと思われる研究方法は,フィールドの文化や状況によって変わります。もちろん私の研究は数ある研究のなかの1つであり,私の方法がベストであったかは議論もあるところだと思いますが,私の経験を紹介することで,今後国際看護研究をしたいと思っている方の一助になればと思い,またもっといろいろな方に国際看護研究に興味をもっていただくきっかけとなればという思いもあり,執筆することになりました。具体的には3回に分けて,以下のトピックスについて述べようと思います。
1)タンザニアの母子保健とスワヒリ語による質的インタビュー
2)持続的な国際協働を行なうための姿勢と試み
3)国際研究へ若手研究者の育成─教員・アドバイザーの立場から
このうち3回目には,イリノイ大学で私の博士論文審査委員をしてくださった,アフリカでの研究経験も長いDr. Crystal PatilとDr. Kathleen Norrのコラムもいただき,より多角的な視点でこのトピックについて深められればと思っています。
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