- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
- サイト内被引用
はじめに
エビデンスに基づく実践(evidence-based practice;以下EBP)という用語は,臨床をはじめとして広く活用されるようになっている。EBPは,従来EBM(evidence-based medicine)またはEBN(evidence-based nursing)という表記のように,専門領域に応じて用いられてきたが,EBP自体が,多職種による学際的な取り組みであることを背景として,現在では専門領域を問わずEBPという表記が一般的に用いられるようになっている。本稿でもこうした理由で,EBPという用語を用いることとする。
まずは簡単に,看護におけるEBPの代表的な定義について紹介しておきたい。それは,看護におけるEBPとは,「最適なケアの決定のために,利用可能な最良のエビデンスと,看護の臨床的専門技能,そして患者・家族の選択(preference)の三者を結合するプロセスである」とするTitlerらによる定義である(Titler, Mentes, Rakel, Abbott & Baumler, 1999)。
EBPは,欧米を中心として,医学領域では1990年代に,そして2000年代には看護学領域において重大な関心事となり,看護実践のなかに取り入れられてさまざまな議論を生んだ。日本でも,2000(平成12)年には看護系のEBP専門雑誌(『EB Nursing』)が発刊され,EBPに関する書籍も多数出版されるようになるなど,EBPは普及しつつあるといえる。EBPに関する研究も世界的に盛んに行なわれており,例えばCINAHLによる検索では,Major Subject(主要検索用語)を“Nursing Practice(看護実践),Evidence-Based(エビデンスに基づく)”とし,出版年を2000年以降に絞り込んだとしても,そのヒット数は約2500(2010年2月現在)にものぼる。このように,EBPの重要性は国際的な認知を得ており,“EBPムーブメント”と称されるようなトレンドとなっているともいえよう。
しかし,EBPの概要は説明できても,臨床現場において実際どのように推進していけばよいか,その方略を熟知している研究者・実践者はまだ少ないのが日本の現状であろう。本焦点の主眼は,EBPの基本的な知識や考え方だけではなく,EBPの実行(implementation)を推進するためのモデルや方略である。本稿では,次稿以降で紹介する,EBPの実行を推進するための,米国で開発された概念モデルとその実践・介入例に先立って,まずは看護におけるEBPの重要性とその概要,EBPに対する批判と障壁(バリア),EBP実行の方略の概要について紹介したい。
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.