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はじめに
筆者は,大学院時代に精神障害者の家族会と出会って以来,現在までの20年以上にわたってその家族会との交流を続けている。大学院修了後は,心身障害者福祉センターで,親や保育関係者を対象とした障害乳幼児の相談援助業務に従事したが,その間も,発達障害児を抱える家族の困難を自己の成長の糧にしてしまう「たくましさ」に幾度となく大きな感銘を受けた。
これまでの,困難を抱えた家族の「たくましさ」との出会いは,私のストレス研究の枠組みにも大きな影響を与えた。それ以後,ストレッサーを疾病や生活上の困難を生み出すリスクとしてのみではなく,中立的なもの,あるいは自分が挑戦するべき課題として位置づける健康生成論に大きな関心をもつようになった。
筆者の基本的な関心は,育児・介護や家事を負担しケアを提供する家族,すなわち親や配偶者のストレスへの認識と対処,その対処に影響するソーシャルサポートやネットワーク等の社会資源との関係である。最近は,ケア提供者の範囲を家族から専門職,住民ボランティアにまで広げて,援助者のケアの原動力となる要因の解明を研究テーマとしている。
なかでも,保健,医療,看護,心理,福祉などのヒューマンサービスの広範な分野に大きなインパクトを与えている概念であるsense of coherence(首尾一貫感覚,以下,SOC)に興味をもち,原著の分担翻訳,児童用SOCスケールの日本語版および中国語版の開発などに携わってきた。これまでに,小学生,大学生,看護実習生,新人看護師,交通遺児などの多様な集団において,SOCが健康を維持・増進する機能について検証してきている。
本稿では,Antonovskyの著書『健康の謎を解く─ストレス対処と健康保持のメカニズム』の第5章「SOCは生涯どのように発達するか」(Antonovsky,1987/山崎・吉井監訳,2001,pp.105-148)のなかで提示されたSOCの発達・形成に関わる要因に関する仮説と,その後の先行研究について概観する。さらに,病気や障害とともに生きる経験が子どもや親のSOCとどのような関連があるのかについての研究を紹介する。なお,以下文中の( )内のページ数は,前掲書の該当するページを示すこととする。
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