連載 質的研究を科学する・5
質的研究の結果の一般化の問題
髙木 廣文
1
1東邦大学医学部看護学科
pp.471-474
発行日 2009年10月15日
Published Date 2009/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681100397
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はじめに
質的研究の結果を発表した場合,結構よくある質問として,「この結果は一般化できるのですか」というものがある。この種の質問自体は,あたかも研究結果の一般化や普遍化の可能性についてたずねているような印象を与える。しかし,その実際上の意味するところは,「こんなわけのわからない研究結果を発表して,何を考えているのか?」という疑問や非難が根底にあるに違いないと思われるのだが,どうだろうか。
このような質的研究に対する非難の理由として,「対象者の選び方が恣意的である」,さらに「標本数が少なすぎる」といった点があげられるだろう。普通に考えると,この質問の意味するところは「対象の選び方に偏りがあるのだから,一般化はできないはずである」,さらに「こんな少数の対象による研究では,一般化は所詮無理である」ということである。すなわち,どちらにしろ,質的研究の結果はその研究方法に見合った結果として,偏りのある,一般化できないものであるということを主張しているといえるだろう。
このような結果の一般化に対する否定的な主張に対して,質的研究者はどのように返答すべきなのだろうか。
①「この結果の一般化は不可能です。質的研究では,一般化はめざしていません。一回起性の現象はその記述ができればよいのです」
②「この結果の一般化は可能です。この結果から一般的なモデルが構築できます」
どちらの答えが,科学的な質的研究をめざす研究者にとって好ましいだろうか。私としては,当然②を選びたいのだが,問題はそのような主張が可能なのかということである。
今回は,質的研究の結果の一般化について,これまでの議論を踏まえて考えてみたい。
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