- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
先日,大学院生のゼミで博士課程の院生から質問を受けた。「看護研究というのは,普通の研究とどのように違うんですか?」―私はこの質問に対してこのように答えた。「その言葉には,看護者が行なう研究という意味と,看護の現象を扱う研究という2つの意味が含まれると思います。しかし,看護研究という,他の領域の研究とまったく異質なものがあるという意味ではないと考えます。看護研究に求められる手法や要件も普遍的で,他の研究に比べて特殊なわけではありません。ただ,看護の現象にフィットする方法論を模索し,さらにその結果が現象の問題を改革するために当事者性をもって行なわれることを特色としていると思います。例えば,看護の現象を知らない研究者の研究を,現場の第一線の改革を行なう看護師たちが受け入れやすいかといえばそうではないと思います。だから,研究をしようとする領域の現象はよく知っていなければいけないし,当事者としての責任性を理解していなければならない。また,現場の文化も共感性をもって理解できなければいけないと思います」。
このような質問が出される背景には,私が教官をしている大学院が保健学の博士号を出しており,教室には保健,福祉,心理,看護の領域で精神保健学と精神看護学を専攻する大学院生がともに学んでいるという状況がある。質問をした院生は精神保健学分野の大学院生で,臨床ではPSWの機能を果たしながら,研究領域は児童精神医学である。彼は柔軟な視点と統計的方法論の強さをあわせもち,そして対象である子どもたちから強い信頼を受けている院生である。私の担当分野は精神看護学分野なので彼の指導教官ではないが,例えば保健師の児童虐待防止に関する研究のデザインを組む時には,一緒にディスカッションをすることもある。研究に関する議論をしていて領域の差はまったく感じない。あるのは研究方法論,テーマ,そして現実の状況との絶え間ないすり合わせである。国立の研究所で訓練を積み重ねている彼は,そんな時の本当に強い味方である。
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.