焦点 看護学における「生活者」という視点─「生活」の諸相とその看護学的省察
慢性の病いと「生活者」,そして「生活」
精神看護における「生活者」という視点について
古城門 靖子
1
,
寳田 穂
2
1神戸大学医学部附属病院
2大阪市立大学医学部看護学科
キーワード:
生活者
,
精神科看護
,
精神障害者
Keyword:
生活者
,
精神科看護
,
精神障害者
pp.373-378
発行日 2006年9月1日
Published Date 2006/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681100149
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はじめに
精神看護の領域では長い間,「医療機関で入院治療中の精神疾患患者への看護」が主流であった。というのも,「精神障害者は何をするのかわからない危険な人」という社会の偏見が根強く,そのために精神医療の構造が大規模な精神病院への長期収容を中心としたものであったためである。
精神病院が隔離収容の場としての機能を担っていた精神医療の長い歴史の転換点は,1987年の精神保健法の成立であった。そしてそれ以降,障害者基本法の成立,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の成立により精神障害者の自立と社会経済活動への参加促進の流れが加速度的に進んだ。そういった精神障害者を取り巻く環境の変化により,精神看護の対象は「精神疾患患者」から慢性の精神疾患をもちながら地域で暮らす「生活者」へと拡大していった。
実際,「生活者」をキーワードに精神看護領域で報告されている文献の動向をみると,1983~1987年で2件しかなかったが,1988~1994年で5件,1995~1999年で8件,2000年以降19件と増加傾向にある。このことからも,精神看護の対象を地域で暮らす「生活者」としての視点で捉えようとする動きがあることがうかがえる。とはいえ,精神看護において「生活者」という言葉の定義がなされているわけではなく,またこれまでに精神看護領域における生活者としての精神障害者に関する検討がなされた報告は見当たらない。そこで今回,精神障害者を取り巻く環境が変化するなかで,精神看護において「生活者」という言葉がどのように用いられており,それにはどのような意味があるのか文献を通して検討してみたい。
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