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現象学的運動,人間科学および研究プロセスの三者の間の関係を明らかにするために,私は,まず知に関する最も重要な2領域である哲学と科学について手短かに述べ,そののちそれぞれのパースペクティブを研究のプロセスと関連づけようと思います。それぞれの領域において,伝統を重んじる発展があった一方で,学問的な活動の中でそれらの伝統との決定的な分岐を宣言する運動があることも示そうと思います。21世紀初頭の現在,私たちは,分岐したもののいくつかが合流し,人間性についてのよりよい理解をもたらす可能性をまのあたりにしています。それでは,まず,最も根本的なものである哲学から始め,次に科学について述べ,最後に,そこで述べられる議論が研究に示唆していることについて考えてみましょう。
哲学における近代の運動の1つとして,現象学は,新しいそして非常に重要なやり方で人間の主観性について論ずることに専念してきました。もちろん,哲学はいつでも人間の状況や人間であることの意味について思索し続けてきました。現象学はこの議論を飛躍的に前進させたのですが,それは現象学が意識および主観性についての理解に大きく貢献したからであると私は確信しています。意識と主観性に注目することで,客観主義的な研究方略を最重要視する傾向が和らげられました。また,人間科学は自然科学の模倣のもとに出発しましたが,20世紀後半において,自然科学の諸基準をまねることをやめ,科学としての独自の道を見いだしはじめました。こういった展開が,人間性についての,また,科学の実践を他に類のない人間的特性と両立させ,還元主義的傾向を回避するにはどうしたらよいかについての,よりよい理解につながってきたのです。20世紀最後の数十年間に,ついに,社会と人間の科学における量的研究諸方法の支配に1つの裂け目が生じ,科学としての地位を合法的に主張しうるだけの厳密さを備えた質的研究方法が出現しはじめました。人間の意識と主観性に哲学的に焦点を当てること,非還元主義的な人間科学的パースペクティブの絶え間ない発展,質的研究方法が近づきやすくなったこと,これら3つの動向が合流して,さまざまな人間科学の成熟を助け,おそらく,自然科学がしてきたような社会への真の貢献を可能にするということを,今日私は示したいと思います。この合流が自然科学の諸基準によってではなく,哲学的人間学の諸基準に動機づけられた知の発展へとつながるということを,私は希望しているのです。
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