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はじめに
バースプランは,1982年に英国で出版されたジャネット・バラスカスの『アクティブ・バース』の中で,女性が主体的な出産を体験するためのツールとして初めて紹介された1)。日本でも1990年代ころから普及し,研究報告ではバースプランを立案することで妊産婦の出産に対する主体性につながることや,出産の満足度が高まること,医療従事者と妊産婦の相互理解を深めることなどが期待できるとされており2),現在,それらを目的に多くの分娩施設でバースプランが取り入れられているのは周知の通りである。
バースプラン用紙の様式は施設によってさまざまであるが,妊婦が出産への想いを自由に記載できることを重視した結果,空白が多く,A4用紙1枚に記入例の一文が添えられる程度のものもある。このような様式のバースプランに関して佐藤らは,バースプラン用紙がほとんど白紙のまま提出されることや,医療従事者に依存する内容の記載であることが多く,また,添付されている例文の内容がそのまま記載され,妊婦独自の想いが記入されていることが少ない,と問題点を指摘している3)。
実際,妊婦からは「何を書いていいか分からない」「考えても文章化が困難」という困惑の声が上がっていることが報告されている4)。筆者がこれまで目にしてきたバースプランも,やはり妊婦が自分の言葉で書いていると評価しづらいものは多く,「陣痛室には実母と夫以外入れてほしくない。会陰切開はしたくない。カンガルーケアをやりたい」といった紋切り型の内容や,医療従事者に期待するサービスの羅列のようなものが多いように感じていた。このような現状に関して戸田は,出産に対する知識のない初産婦にとって,バースプランとして出産に対する希望を自由に書くこと自体が困難であると述べており5),実際,希望するケアを列挙するだけでも努力が必要であることは理解できる。
しかし,このようなバースプランが本当に出産の主体性を引き出すことや,出産の満足度を高めることにつながるのだろうか。細切れの要望の列挙から一歩進めて,妊婦が出産全体の経過を理解した上で,分娩各期に自分がどのように行動するか,妊婦自身を主語にしたバースプランを立案することで,より主体的で満足な出産に近づけられるのではないだろうか。
このような問題意識を持ったことから,出産に関する知識や具体的なイメージを持たない初産婦が,出産全体の流れを理解し,出産中の行動を具体的にイメージできるバースプランの立案支援を行った。本稿ではその取り組みについて報告する。
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