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解決困難な課題にどう向き合うか?
母性看護専門看護師(以下,CNS)は,周産期の現場で出会う複雑で解決困難な課題を持つ事例の解決に当たる高度看護実践家である。現場に存在する困難な課題に対し,多職種,他部門間の調整や相談,倫理的課題の解決,その対象となる人々や家族への最善のケアが提供できるようスタッフの能力を見極めながらその能力を伸ばす教育・相談,所属組織のシステム改革などの役割を担う。個々のCNSは卓越したケア実践者であるが,自らが高度な実践を行うことが目標ではない。CNSの活動は「見えないのが最終形」という表現に象徴されるように,①実践,②調整,③教育,④相談,⑤倫理調整,⑥研究の6機能を駆使し,個々のスタッフや組織の課題と持てる力を見極めながら,黒子として陰で支えつつ,組織全体,医療・看護の質の向上を図る存在である。その具体的な活動の姿は,本連載1年間にわたり,周産期医療の現場で活躍している母性看護CNS 9名の実践報告の中で詳しく述べられている。
倫理的葛藤は複雑で解決困難な課題として,周産期医療の現場において対応に苦慮する臨床的課題の一つである。本連載9月号(73巻9号)では,点滴治療を拒否している切迫早産妊婦と点滴継続を主張する医師の治療方針との間で生じた倫理的課題に対し,母性看護CNSの八巻和子氏が行った倫理調整過程が示されている1)。そこでは,対象者の最善と医療のパターナリズムという価値の対立の狭間で最良の結論を導くために倫理的調整を試みたが,調整半ばで突然点滴が中止され,結果,32週1800gの早産に至った。本事例の展開について,八巻氏は高度実践家として不全感を抱きつつもその過程を振り返っている。
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