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はじめに
左ページのような場面に出くわした時,あなたはどのように対応するだろうか?
永田さん(仮名)は第1子出産後,産後うつ病を発症し,精神科通院を続けていた。産後1か月で児は乳児院へ入所せざるを得ず,現在も児童養護施設に入所している。それが引き金となり離婚に至った永田さんは,筋力低下を来す進行性の難病を発症。その後,再婚し妊娠した永田さんは第2子の妊娠末期に疲労感と上下肢の脱力感が増悪して周産期センター入院となった。
入院後,難病治療薬である免疫抑制剤の内服を中断していたことが判明し,医療スタッフが再三服薬を勧めても永田さんは拒否。頻回にナースステーションを訪れ,禁忌薬剤である抗不安薬や睡眠導入剤を希望する永田さんへの対応に,スタッフは困り果てていた。入院6日目,ナースステーションでわめき立てる永田さんに母性看護専門看護師(Certified Nurse Specialist:CNS)である田村は「ゆっくりお話ししませんか?」と声をかけた。
永田さんは,シングルマザーとして生き抜くために資格取得の勉強を続けていた。真面目な性格の永田さんは,家事・育児,産休明けの仕事復帰と頑張り過ぎて産後うつに陥ってしまった。その経験から,進行性の難病による上下肢の脱力感が育児に影響を及ぼすことを予測して,今回は妊娠中から産後の家事サービスなど社会資源の活用について調べていた。
産科スタッフは,永田さんに子育ては難しく,第2子も乳児院に預けることになるだろうとの見解であったが,CNSの田村は養育力がないと断定するのは適切ではないと判断。支援を受けながらの養育が可能ではないかと査定し,ケースカンファレンスを企画した。自ら前回の経験を振り返りながら第2子を自分で育てるために準備してきた永田さんの力を基に,どのようなサポート体制を整備していくかを協議した。
その後,前回の出産・育児をCNSと共に振り返る中で,永田さんが感じていた不安が整理され,永田さんは無事に出産を終えた。産後,脱力感やEPDS(エジンバラ産後うつ病自己評価票)の悪化はなく,夫と義母,地域の社会資源に支えられ,自宅で第1子を引き取る準備をしながら,第2子を育てている。
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