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はじめに
1895年11月8日,W.C. レントゲンによって発見されたX線が医療に利用されるようになって約1世紀が経過しました。
放射線を医療に利用するようになってしばらくの間,従事者および患者さんに火傷や皮膚障害などの確定的影響の発生が見られました。また,生物学的実験においてさまざまな放射線の影響が報告されたので,人々は放射線の利用に注意を払ってきました。特に放射線を直接患者さんに照射する放射線科医や診療放射線技師(以下,技師)は,放射線が人体にさまざまな影響を及ぼすことを知っていましたから,できるだけ被ばく線量の少ないシステムを選択したり,機器の品質管理を徹底するなど工夫しながら臨床に使用してきました。放射線機器製造メーカーも,少ない被ばく線量で質の高い診療を提供できる装置の開発を進めてきました。その結果,患者さんの被ばく線量は大幅に減少し,日常の診療において放射線の影響を考慮しなくてもほとんど問題のないレベルで放射線が利用できるようになりました。
これだけ広範に利用され,安全管理の方法が確立されている放射線ですが,何か問題が発生すると,ネガティブな対応になることが多いようです。特に「妊娠」と「放射線」が結びついた場合,患者側,医療側を問わず鋭敏な反応をしてしまう傾向にあります。
妊婦さんやその家族の方が,妊娠過程で放射線診療に関する疑問を抱いたとき,専門家である放射線科医や技師に聞くよりも,身近な主治医の産婦人科医,および,そこで働く助産師等に相談することのほうが多いようです。また,書籍やインターネットに答えを求めることもあります。書籍は,妊娠,出産,育児に関するものが数多く出版されており,手軽な情報源として妊婦さんたちに利用されています。
このように,疑問を解決する手段はいろいろありますが,そこでの情報が食い違うと,妊婦さんの不安は解消されないばかりか,かえって増強するかも知れません。私たち医療従事者は,正確な情報を提供し合って共有することが重要です。本稿では,妊婦さんたちが目にする書籍で,放射線診療に関して,いかなる疑問が取り上げられ,どのような解答がなされているのかを検証しつつ,産婦人科診療に携わっている方々に,現在の医療放射線における安全管理の考え方を理解していただくことを目的にお話をします。
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