巻頭言
患者さんと医療者のギャップ
林 哲生
1
1福島県立医科大学リハビリテーション医学講座
pp.551
発行日 2025年6月10日
Published Date 2025/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.038698220530060551
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脊髄損傷の治療を長年行ってきて,避けてきた問題があります.所々で指摘されている問題ではあるのですが,医療者の患者さんに対する希望と患者さん自身の希望は完全には一致していないという点です.
例えば,脊髄損傷者にとっての排便の問題があります.われわれ,リハビリテーション治療に携わる医療者は四肢の動きの改善による日常生活動作(activities of daily living:ADL)改善を第一に掲げて,歩行訓練や筋力増強訓練・ADL訓練などを行っていきます.理学療法・作業療法・言語聴覚療法の療法士の先生方もこのことを一番に考えて日々のリハビリテーション治療をしていることと思います.一方で,アンケート調査による論文では,患者さんにとって最もよくなってほしい機能として膀胱直腸障害が一番に挙がってきます.外出時の排便の失敗はCatastropheだからです.その人の尊厳にかかわると書いてある論文もあります.「歩けなくてもいいから,排便機能をよくしたい」という希望は,患者さん自身からはなかなか言い出せないことも多く,知らない医療者は多いと思います.特に医師には伝わりにくい話です.内服薬や座薬を使用したり,食生活をコントロールすることが最も基本となってくると思いますが,これらだけではなかなか完全には解決しない問題です.
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