- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
「医療職の安全と安心」も重要な課題である
「従業員満足度調査」というものがある。私ごとで,そして少々昔の話で恐縮なのだが,1994年,筆者は,民間企業からの出向でBeth Israel Medical Center(BIMC)の管理職として仕事をしていたときにその調査を体験した。そしていま,「安全で安心な現場にするために……」というサブタイトルをつけた本稿を始めるにあたって,あらためて,その調査に際して管理職向けオリエンテーションで強調されていたことを思い出している。「従業員の不満が高いような組織や現場では顧客に満足してもらえる真のサービスを提供できない」「だからこそ,この調査結果は貴重なデータとなるはずである」「我々はそのデータを使って見直しと改善を続けていかなければならない」などなど。そして,ここではその最初のフレーズを借りてみたい。「医療職の安全と安心が確保されていないような組織や現場では患者に安全で安心な医療サービスを提供できない」……。いかがであろうか。
あらためて,考えてみたい。
いま医療の現場でかつてない事故防止・安全管理の取り組みが進んでいる。「新しい視点に基づいた事故防止・安全管理の考え方」が浸透しつつあるし,「現場の体制」も整いつつある。しかし,事故防止・安全管理だけでいいのだろうか。「それでも間違いは起きる」「それでも事故は起きる」のであれば,「事故発生時の対応」も重要なはずである。そして,実際,紛争・訴訟が増えている現実のなかでは,「紛争・訴訟の防止と対応」も重要なはずである。事故発生時の対応や紛争・訴訟の防止と対応がしっかりできる組織や現場であるということは,事故防止・安全管理にしっかり取り組んでいる組織や現場であるということと同様,そこで業務に携わる「医療職の安全と安心」につながるはずである。そして,その「医療職の安全と安心」は,なにより「患者の安全と安心」にもつながるはずである。
めざすのは,患者と医療職の双方にとって安全で安心な医療の現場を作ることである。それを確認したうえで,本稿では,あえて「事故防止・安全管理」ではなく,「事故発生時の対応や紛争・訴訟の防止と対応」に焦点をあてることとする。そして,あえて「患者の」ではなく「医療職の」安全と安心という視点から,いま取り組むべきことは何か,を考えたい。
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.