特別寄稿
太古の記憶:遺伝子はどのように変化してきたのか
柳澤 秀明
1
1埼玉県熊谷保健所
pp.421-427
発行日 2003年5月1日
Published Date 2003/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100526
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意識と無意識
皆さんは過去の記憶を意識したことがありますか。「最近は物忘れが激しくなった」とか,「とんでもないことは覚えている」とか。我々の記憶には意識できるもの(有意識)と意識できないもの(無意識)とがあります。残念ですが,我々が自分で意識できること(有意識)は意識全体の数%でしかありません。90%以上は無意識のうちにあります。「何であんな事をしたのだろう」や「何でこの人を好きになったのだろう」といったことなどは,全てが無意識による決定なのです。たとえば,今日の朝食のメニューは言えても,1年前の某日の朝食メニューは忘れてしまったでしょう。今朝のことは有意識ですが,1年前のことは無意識化したわけです。でも,10年前のことでも交通事故を経験したなら覚えているでしょう。我が子を失った母親はどんなに年月が経ても,そのことを昨日のように鮮明に記憶しているのではないでしょうか。
このように,各個人の記憶は時計的時間と完全に一致はしていません。しかし,遺伝子の変化という目で見ると,生物の記憶は時計的時間におおまかな相関をして蓄積されます。生物は遺伝子という記憶装置に太古の記憶を凝縮しているわけで,そうした膨大な太古からの記憶こそが我々の持つ無意識の本体です。遺伝子上に残された記憶によって我々の行動は90%以上が決まるのです。
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