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頭のいい人は心が冷たい,という漠然とした思い込みは誰にでもあると思う。頭脳明成績優秀な人に,凡人や落ちこぼれの気持ちなんかわかりっこない,と。特に,試験試験で偏差値に振り回されている日本で育つと,点数が良いというだけでちやほやされることに慣れてしまい,いわゆるエリートたちの人間性は相当歪んでいるのではないかと誰もが危惧しているのではなかろうか。医師というのは一定以上の記憶力が要求される職業であり,医学研究は統合的科学研究の最たるものであるから,成績優秀な人が医学部を目指すのは大変結構なことであるが,頭の良さは良い医師の必要条件に過ぎず,十分条件からはほど遠い。それは,日々医師と接している看護師助産師の方々はすでに痛感されていることであろう。患者にとっても同じで,医師にかかって医療不信に陥る話には枚挙にいとまがない。
医師としての最善の資質はナイス・ピープルであること
ハーバード医学部で筆者が出会った教官たちは,優秀な志願者が殺到する恵まれた立場にいながら,驚くほど真剣に,「どうすれば良い医師になりそうな人材に入学してもらえるだろうか」「どうすれば良い医師を育てられるだろうか」と問い続けていた。「どんな筆記試験も実技試験も,将来良い医師になるかどうかを正確には予測できないのです」と入学試験の限界に溜め息をつきながら,「でも,良いロールモデル(お手本となる人物)が非常に重要だということだけは断言できます。知識や技能に優れていることはもちろんですが,教官に最も求められるのは,身をもって正しい態度を示すことです」と言うのである。その謙虚な情熱は拙著『ハーバードの医師づくり』(医学書院刊)でもほんの一端を紹介したが,中でも忘れられないのは,「要するに医師としての最善の資質は“Nice People”ということです」との一言である。
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