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助産師という職業は,ニュージーランドでは,強い力を持つ自律的な専門職である。助産師はこの国のすべての分娩になんらかのかたちで関わっており,73%を超える妊産婦は妊娠初期から産後4―6週に至るすべてのマタニティケアを助産師のみから受けている。しかしながら,母性保健システムにおけるこのような中心的な位置を助産師が常に占めてきたわけではない。助産師が本当に自律性を確立したのは比較的最近のことであって,それには,法的・政治的改革,職業的・教育的発達,および社会的変化が伴う必要があったのである。本稿では,ニュージーランドにおける助産業務の発達を支えたいくつかの背景を,とりわけ助産学教育に焦点を当てて紹介したい。教育に焦点を当てるのは,助産という専門職を発展させ,助産師を自律的なプラクティショナー(臨床家)として復活させるうえで,教育こそが基本的な方策となっているからである。
歴史的沿革
ニュージーランドでは,1904年以降法的資格を持つ助産師の労働人口が存在してきたが,過去百年のあいだに,それらの助産師の業務範囲は著しく狭まることになった。分娩処置が病院で医師の手によって行なわれることが多くなったからである。1900年代初頭には助産業務の全域に関わっていた自律的なプラクティショナーが,しだいに医師の「助手」になっていった。地域を活動の場としていた助産師たちは,その主たる活動の場を病院へ移し,それも,かつて1つの全体的体験であった妊娠と出産が専門的・個別的部分に分断され断片化されていくのに対応して,妊娠健診外来,分娩棟,産褥棟というように限定された領域で働きはじめた。このような経緯のなかで助産師たちは,出産が正常なライフイベントであり,自分たちはその正常なプロセスを「守護する者」であるという本来の認識を失い,代りに医師と病院が主導する高度に介入的で医学化されたマタニティケアに携わることとなった。この間,助産業務はしだいに看護業務に統合され,ついには唯一助産師になるためにはまず看護師としての訓練を受けなければならないということにもなった。事実上,助産業務は,病院で医師の管理の下で機能する看護業務の一「専門」分野となったのである。
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