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はじめに
今回より数回に分けて分娩期のフィジカルイグザミネーションに入る。分娩は妊娠という長い準備期間を経た後に到達する現象であり,妊娠中に起こる種々の異常は全て分娩に影響して,分娩の善し悪しはその後の母子の健康を左右する1)。このことは,産婦側の身体面にのみフォーカスした問題としてではなく,心理面はもちろん,パートナーや家族との関係,妊娠分娩期にかかわる助産師や医療従事者との人間関係など,女性が置かれているあらゆる環境を含めて考えられることである。
また,分娩期の母児はセンシビリティな状況にある。それは正常に経過している分娩でも潜在的リスクを常に伴うという意味だけでなく,むしろそのような時期だからこそ産婦と胎児がそれぞれの状況に呼応しながら互いの力を発揮しあい,生理現象としての分娩を乗り切ろうとする絶妙なプロセスにある,とも考えられる。産婦が,環境や助産師とのコミュニケーションなどを懸念することなく安心して分娩に集中できるように,妊娠期から継続的にかかわりのある助産師が助産ケアにあたり,フィジカルイグザミネーションが行なわれることが望ましいだろう。
筆者は開業助産院に勤務し,正常分娩のケアを中心に行なっている。通常,分娩監視装置は使用していないため,今回は助産師自身の手をとおして行なうフィジカルイグザミネーションや観察を主とさせていただくことになる。これは助産師として基礎的なことであり,妊娠期の腹部診察などで既に解説された手技の応用編でもあるが,時事変化する分娩で十分活用できるものである。産婦に触れる手は情報を得るためだけでなく,同時進行でケアするものとなる。分娩を妨げることなく,妊娠期からの情報とともに,産婦のありのままの表現や分娩に対する思いを受け止めながら注意深い観察とケアを併行させ,ホリスティックに分娩進行をアセスメントしていくプロセスは助産師だからこそ可能ではないだろうか。
分娩の自然な経過に出会うたび,私たちの身体は,それぞれの個性のもとに理にかなった仕組みを本来的に備えているように感じる。私たちの身体から発せられる声をいかに読み取るか。分娩時のベーシックなフィジカルイグザミネーションに,アップデートな研究や医療技術の活用をそれぞれに加えていただければと思う。
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