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はじめに
日本国内で新規発症する結核患者は,2017(平成29)年は1万6789人で,岐阜県では313人,西濃保健所(以下,当所)管内(2市9町)では49人である。人口10万対罹患率はそれぞれ13.3,15.6,13.3で,先進諸国の多くが罹患率10以下の低蔓延国であるのに対し,わが国は中蔓延国とされている1)。
わが国の結核患者の多くは65歳以上の高齢者であり,当所管内でも高齢者が約80%を占めている。これは,既感染者の高齢に伴う免疫力の低下や,高齢世帯や独居による生活環境の悪化等が関連していると考えられる。もう1つの特徴は,外国出生者で若・壮年齢の患者の増加である。特に結核高蔓延国とされる近隣のアジアや中南米諸国からの留学生や就労者が,母国で感染した状況で入国し,文化的にも生活環境にも慣れない日本で結核を発症しているものと考えられる。
これらの患者は,発症しても,高齢であることや日本の医療制度に馴染みがないことから受診が遅れ,高齢者施設や職場,学校等での結核の拡散が懸念される。このような患者が医療機関を受診した場合に,排菌状況が確認されれば,感染症法第19条第1項および第20条第1項(第26条において読み替え準用)により入院勧告がなされる。多くの患者は,この勧告に同意して入院し,公衆衛生的感染拡大の防止が図られている。
一方,本稿で報告する患者は,当初は勧告に同意し入院していたが,途中で自己退院し,病状悪化による再入院時は勧告入院に従わなかったため,やむなく同法第19条第3項により措置入院となったものである。
本稿では,結核患者の入院に一時的に措置入院を適用した経緯と,本患者の退院基準の適応における課題について触れてみたい。
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