連載 保健師のための行政学入門・14
なぜ上司は保健師の行っている仕事を民間委託したいと言うのか?
吉岡 京子
1
1東京医科大学医学部看護学科地域看護学
pp.158-162
発行日 2016年2月10日
Published Date 2016/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1664200380
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保健事業の委託化を狙う上司
この仕事に就いてから,さまざまな地域の保健師さんから電話相談を受ける機会が増えている。なかでも「住民向けに行っている健診で“要精密”となっても住民はなかなか精密検査を受けに行かない。上司からは,『特定健診のフォローは保健師じゃなくていい。単価が安いから看護師さんに委託したい』と言われている。現場は保健師でないとだめだと反論できず,どうしたらいいか困っている」という相談や,「上層部は乳幼児健診を委託したいと考えているが,現場からすると地域の様子が見えなくなるので民間委託だけは阻止したいと反対している」という相談を受ける。保健師自身は自分たちが職能として何ができるのかを上司にわかりやすく説明できず歯がゆい思いをしている一方で,上司は少しでも単価が安い民間委託化を虎視眈々と狙っているという構図である。
少し見方を変えて“要精密”になった住民の立場で考えてみると,保健師から「このまま放っておくと高血圧が悪化して脳卒中になる危険性もありますよ」と毎年同じような説明をされ,精密検査を受けるように勧められても,「仕事が忙しいのに休みを取って,なおかつお金を払ってまで精密検査に行きたくない」とか,「今どこか具合が悪いわけではないし,誰にも迷惑をかけていない。ぽっくり逝くから精密検査は受けない」などさまざまな理由をつけて精密検査に行かないことを正当化したくなる。内容によっては,住民自身もインターネットやマスコミから情報を得ているため,保健師よりも詳しい場合がある。
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