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はじめに
〈うつ〉がすべての自殺の原因ではありませんが,その多くを占めることは確かです。警察庁のまとめた自殺者数の推移統計によると,2007年度の自殺者数は約3万2500人で,10年連続の3万人超という状況です。この3万人という数を,みなさんはどのように感じますか? 交通事故のニュースがほとんど毎日のように報道されていますが,自殺者数はその交通事故の死亡者数の約5倍です。こうした事実を考え合わせると,いかに自殺者の数が多いか,ご理解いただけるでしょう。
また,現代は「ストレス社会」であるといわれますが,過剰なストレス(正確には「ストレッサー」というべきですが)は,働いている人だけに負荷されているのではなく,複雑な現代社会に関わるすべての人に負荷されています。たとえば,高度なIT化はすべての人に等しく有益とはいえず,「若者にとっての便利は,高齢者にとっての不便」といった“ストレス格差”を生んでいます。このような暮らしづらい世の中は,近年増えつづける中高年層から老齢層の〈うつ〉の原因の1つともいえるでしょう。
このような世相を背景にメンタルヘルスへの関心は高まり,メンタル障害への啓発は少しずつですが進んでいます。少なくとも〈うつ〉は他人事ではなくなっているようで,〈うつ〉の人への関わり方に注意する人も増えてきました。最近では,企業の管理職ならば〈うつ〉とわかっている部下を励まさないことぐらいは“常識”というレベルに達してきています。
ただし,メンタル障害の啓発が進むことは誠に好ましいことなのですが,偏った知識や中途半端な知識がかえって問題を引き起こしたり,さらにはメンタル障害の知識を悪用するといった問題まで発生しており,ここ数年それらが顕著となってきています。そこで,本号と次号の2回にわたって,一般的なうつ病の知識だけではなく,最近の〈うつ〉にまつわる問題も含めて解説していきたいと思います。ぜひ,この機会に〈うつ〉に対する正しい理解と正しい対応を習得してください。
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