連載 「健康格差社会」への処方箋・4
遺伝と環境―生まれは育ちを通して
近藤 克則
1
1日本福祉大学社会福祉学部
pp.70-76
発行日 2007年1月10日
Published Date 2007/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1664100363
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2003年4月15日,生物医学分野のビッグニュースが報じられた。ヒトゲノム・プロジェクトによって,30億個の全塩基配列が(解読不能の1%を除き,99.99%の精度で)解読完了という宣言である。それは20世紀の生物学史上,最大の成果といわれるワトソンとクリックによる「DNAの二重らせん構造の発見」(1953年,1962年ノーベル生理学・医学賞)から数えて50周年にあたる年であった。ゲノムとは,細胞がもっているDNAとそれに書き込まれたすべての遺伝情報のことで,生物の姿・形や病気と深い関連をもつ1)。今後,遺伝情報の解明によって,発病予測や遺伝子治療ができるようになるという期待が高まっている。
一方,妊娠・新生児期から成人期に至る過程(11月号)や職業階層・雇用形態(12月号)において,社会経済的に厳しい状態にさらされた人たちに不健康が多いという「健康格差」を示してきた。だが,これら社会環境(第1因子)が不健康(第2因子)をもたらしているとは限らない。第3因子にあたる遺伝子が,その人の社会階層(を決める知能,才能,パーソナリティなど)と健康状態の両者をほとんど決めている可能性があるからである。その場合,遺伝子が優れている人が,高い社会経済的地位と健康の両方を手に入れ,劣った遺伝子をもった人が,社会の底辺に甘んじ病気がちなのは,避けがたいことになる。もって生まれた遺伝子によって運命が決まっていて,変えられないものならば,「『健康格差社会』への処方箋」など,無意味である。
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