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育ちの支援に育てられた師の現在
初めて教員として見知らぬ土地に赴任し,着任早々,実習指導に行かざるを得なかったあの日から,13年が経過しました。この連載の第1回「先生の先生は学生だった」でご紹介した私の体験は,今までさまざまな立場の方を驚かせてきました。勤務したことのない領域での実習指導という現実を,読者の皆さんはどのように受けとめられたでしょうか。おそらく肯定的な感想ばかりではないと思われますが,私にとっては消すことのできない職業人生の一部であり,結果的にはなくてはならないプラスの体験となりました。過酷だったのかもしれませんが,だからこそ「学校の教育はいわゆる“看護の現場”ではない」という固定観念を捨てることができ,教育の場で自分自身の看護の力量を鍛えようという意欲をもてたのだと思います。
学生に看護しようという着想は,本当に空から降ってきたようでした。学生が生き生きと学ぶ表情を見ている間に,学生に看護するという教育方法があるのではないかと思うようになり,1年目の実習プログラムが終了したときに看護教育関係の資料を調べました。その時点で,私の実践方法が“教材化モデル”*1に,また,教育に対する考え方が“ケアリングカリキュラム”*2で述べられていることに近いということを知り,安心して「学生を対象とした看護を教育実践の課題にしよう」と決めることができたのです。実習のために看護教育の文献を調べたのは,1年目のこのときだけでした。その後,学生を看護する者として私が大切にしてきたものは,看護理論や看護面接で用いられる方法論などでした。そのような看護の知識と技術のほか,個人および集団の心理学など,それまで学んできた他分野の知識を組み合わせて応用し,自分がもっているものを総動員して思いっきり看護してみようという気持ちで学生に向き合ってきました。看護が好きな私にとって,その体験は,苦労はあっても充実した“無心になれる時間”でした。
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