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異性愛を中心とする社会においてマイノリティであるゲイ・バイセクシュアル男性は,「異性愛者」としての社会的役割を絶え間なく担い続け,日常的に社会的抑圧状態にある。その結果,過度に蓄積されたストレスによって精神的健康を悪化させている場合がある。これまでの連載では,多くのゲイ・バイセクシュアル男性は,慢性的ストレスを幼少期や学齢期から感じ始めていることや,その一方で学校教育現場では同性愛について適切な情報提供がほとんどされておらず,そのため,いじめ被害や自殺未遂率は異性愛者に比較して高率であることを報告した。彼らの抱える健康問題はほかにも多岐にわたり,それぞれが連綿のようにつながり合っているともいえるだろう。そのなかでも近年で最も注目されており,かつ深刻な健康問題がHIV感染症である。
HIV感染症は彼らの数多くある健康問題のただ1つでしかなく,いわば氷山の一角である。しかしながら,その1つの健康問題がゲイ・バイセクシュアル男性の生活にさまざまな影響を与えるようになってきている。連載の第3回ではわが国におけるHIV感染の報告数が最も多い感染経路は男性同性間の性的接触であり,なかでも若年層に多いこと,つまりゲイ・バイセクシュアル男性の若者がHIV感染の危機にさらされていることを報告した。わが国のHIV感染の拡大状況を分析する際には,なぜ特定の集団にHIV感染の拡大が集中しているのであろうか,どういったリスク要因があるのだろうかという視点をもつことが必要である。今回は,ゲイ・バイセクシュアル男性のHIV感染予防行動に関連する心理・社会的要因に焦点を当て,HIV感染の拡大の現状について行動疫学調査の結果をもとに概説する。
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