連載 BOOKS
―「健康格差社会 何が心と健康を蝕むのか」―格差社会に対応する公衆衛生活動
高鳥毛 敏雄
1
1大阪大学大学院医学系研究科予防環境医学専攻
pp.174
発行日 2006年2月1日
Published Date 2006/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1664100051
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健康格差の背景には,経済格差,貧困の問題がある。英国における産業革命を機に,労働者のなかに見られた「貧困・不衛生・疾病」の果てしない悪循環を断つための努力がはじめられた。最大の課題は格差であり,今日においても貧困と健康の悪循環は解決されていない。経済所得が低い国の人々の平均寿命が短く,さまざまな感染症,HIV,結核の問題が大きい。先進国においても解決されているわけではない。米国,英国において社会と健康に関わる報告は多くなされている。米国は,弱肉強食の社会だから,英国は階層社会だから,とよそごとに思ってきたのであるが,わが国も決して例外ではない状況になっている。このことをわが国の保健医療関係者に喚起しているのが本書である。
健康格差社会の状況に対し保健医療制度は対応できているのか,本書を通じて問うてみることも必要である。社会が豊かになるにつれ,貧困な者がマイノリティーとなってくるために,意識的に健康格差社会に対応した制度を育てていかなければならないはずである。英国社会は,産業革命により世界で最初に労働者と健康の問題に直面させられ,しかも厳然と社会階層が残されている。そのなかで健康問題をどうすれば克服できるのか懸命に取り組んできた長い歴史を有している。その1つが国営の保健医療サービス制度(NHS)である。すべての人々が社会経済事情にかかわらず保健医療サービスを無料で利用できるようにすることにより,経済格差の解消は難しいものの健康格差の解消はできるのではないかと考えたものである。
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