新カリキュラム講座 一般教養課目・2
美学編III
井村 陽一
1
1早稲田大学
pp.36-39
発行日 1967年6月1日
Published Date 1967/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663908857
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III.美学の基本的な諸問題
1)問題の原理的で同時に歴史的な考察が必要であること
美術についての研究が,原理倫的・体系的方法をとる美術学と,実証的・歴史的方法をとる美術史という二つの方向に別かれ,同様に文字なら文芸学と文学史,音楽なら音楽学と音楽史というように,常に研究の二つの方向が実際に追求されている。そして研究のこの二つの方向は,それぞれ一応区別される学科になっているが,また互いに前提としあうことも避け難い。文化精神科学において,歴史的方法を理論的・体系的方法とが切離しがたく結びついているのは,いまさら指摘するまでもないと思う。
この事情は美学においても全く同様で,美学上の主要なテーマはすべて一定の歴史的な状況のなかで発生するか,あるいは意識されたかである。したがって,なにかある問題を取りあげて論ずる場合には,その問題の発生した時代,それが最も尖鋭に意識された時代の精神的状況を十分に考慮し,具体的にはその時代,場所の芸術史的状況との関連を無視しないことが本来の態度であろう。体系化はその次の事柄である。哲学的学科のなかでは具体的な事実—美的現象や創作活動や作品や鑑賞・伝達の行為など—と最も密接に触あっていなければならない〈美学〉においては,そうした具体例によって考察を進めることは,時には必要でさえある。
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