編集デスク・33
郷土愛というもの
長谷川 泉
pp.32
発行日 1963年11月1日
Published Date 1963/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663908789
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今年の夏は中禅寺湖畔に遊ぶ機を得た。湖畔の道路は拡張のさなかで,自動車が通るごとに砂塵を舞いあげ,せっかく東京のスモッグを離れて来たのに,もうもうたる砂煙のなかをくぐりぬける憂欝さがあった。湖上の清風にしくはなく,道路が完成するまでは湖上の碧緑の水趣が愛されるであろう。
宇都宮女子高校長長安寿夫氏の案内で宇都宮駅から車によったので,日光街道の見事な杉並木を十分にたんのうできた。長安氏はアメリカに数度もわたり,目下日米高校生の交換留学を実施している新しい教育家である。車窓に映る杉並木の大木の凄絶な光景は,まことに何かの文句にあるようにスカッと爽やかに天室を切り,熱心に語られる郷土愛に基づく教育の抱負は次代を担う若い世代に寄せる老教育者の情熱のすさまじさを端的に物語っていた。老教育者などと言ったら叱られそうな,かくしゃくたる元気である。
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