ルポルタージュ 女と靴下・7
女性と裁判
鈴木 俊作
pp.709-715
発行日 1978年11月25日
Published Date 1978/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907268
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ルポの取材やインタビューに歩くと,あちこちで‘なぜ“女と靴下”という題をつけたのですか’といぶかしそうな表情で問い返されることがよくあります.女と靴下—それは男性の側から女性を冷たく意地悪な目で見た時の一種のひやかしであって,あなたまでがまさか本気で信じているわけではないでしょうね,と言いたげな目つきです.
そんな時,私はこう答えることにしています.‘戦後,女と靴下が強くなったという表現は,その底にひやかしやからかいが隠されているにしても,ある程度事実ではないかと思います.たとえば靴下を考えてみると,戦前はどこの家庭でも子供の靴下の穴をかがることが母親の夜なべ仕事であったわけです.ところが,今は使い捨ての時代になったということもあるでしょうが,そればかりじゃなくナイロンが出現してから以前とは比較にならぬほど丈夫になったと言えるでしょう.ナイロン製のひっぱりの強さは木綿の靴下なぞ比較になりません.なにしろ,銀行ギャングが覆面に使うくらいです.靴下の強さが銀行強盗のために役だつようになったというのでは身も蓋もありませんが,その美しさという点でも,世の中の男性をたいへん幸福にしてくれていると思います.しかし強くなったと言いながら,ナイロン製の靴下がちょっとした接触ですぐビビッと“伝染”してしまい,いかに過敏で脆弱な一面を持っているかも周知です.
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