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はじめに
警察庁統計によると,2015年の刑法犯検挙人員総数は239,355人,うち精神障害者(疑いを含む)などは3,950人と1.7%を占め14),その割合は近年微増傾向にある。しかし鑑定留置は,裁判員裁判が2009年5月に施行されて以降,倍増したことが指摘されており,最高裁によると,導入前は年間200〜250件前後で推移していた鑑定留置が,導入後は急増し,刑法犯の検挙件数が減少する中にあっても,14年は564件,15年は483件で,特に起訴前の件数が増えているという4,21)。この背景には,昨今の精神科疾患概念の広がりを受け,これまで責任能力の俎上に上がることのなかった広義の精神障害者にも鑑定請求がなされている可能性の他に,裁判員裁判では「裁判員に精神状態を分かりやすく説明する必要があり,公判で争いそうな際は起訴前に鑑定を求めるケースが多い」と話す検察幹部の言葉21)にも現れているように,司法関係者が先手を打っている現状がある。
刑事事件に関する精神鑑定は,大きく起訴前鑑定と公判鑑定に分けられる。鑑定結果は,多くの場合鑑定書の形式で提出され13),その提出のみで終わることもあるが,公判鑑定や場合によっては起訴前鑑定でも,鑑定人が法廷で尋問されることがある。起訴前鑑定を裁判所が活用する向きに批判的な意見もあるが19),裁判迅速化の観点から,重複鑑定を避ける意向が裁判所にもあるとされ19),裁判員制度の中ではその流れが強まっていることは否定できない。
鑑定人は,刑事訴訟法上は証人と同じく訴訟の第三者だが,事実の認定や証拠の評価に必要な専門知識を提供することで,実質的には裁判官の補助者として,その自由心証主義に基づく判断を合理的にコントロールすることに役立ってきた2)。鑑定人は,専門家証人とも呼ばれ,広義の“証人”として,出頭義務,証言義務が課せられ,一般の証人尋問の方式が準用(171条)32)された口頭による鑑定報告を行う17)。口頭鑑定の理論的・技術的問題は重要な課題だが,十分議論されているとは言いがたく,その内容や質に大きなばらつきがあるほか,ともすれば司法関係者の論理に翻弄されるのが現状である。
司法精神医学の尊厳を守る鑑定人および尋問はいかにあるべきか。以下,そのあり方について考察する。
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